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トップメッセージ

エネルギー産業の変革期に、「人」を中心に据えて企業価値の向上を実現する

2. 企業価値の向上を目指す新たな中期経営計画 ― Vision2030、第7次連結中期経営計画に込めた思い ―

第7次中計を通じ、持続的な企業価値向上を実現

当社は、2001年にグループ理念「私たちは、地球と人間と社会の調和と共生を図り、無限に広がる未来に向けての持続的発展をめざします。」を制定しました。20年以上が経過する現在も、この理念は揺るぎません。一方、現在のようなエネルギー変革期に期待されるのは中期経営計画とグループ理念をつなぐ、中長期のビジョンであると考え2030年に向けてVision2030「未来を変えるエネルギー、社会を支えるエネルギー、新たな価値を創造する。」を新たに策定しました。

未来を変えるエネルギーとは、再生可能エネルギーや次世代エネルギーなど脱炭素社会への移行に欠かせないものを指し、社会を支えるエネルギーはエネルギーの安定供給のために、従来の石油資源を効率的に活用していくことを意味しています。この2つを両輪として新たな価値を創造していこう、という思いを込めました。

Vision2030では、脱炭素への社会的な要請の高まりは十分に認識した上で、急速なエネルギー転換による歪みや悪影響も考慮し、低炭素、低コストのエネルギーを安定供給することが当社グループの使命だと考えております。

また、第6次中計までは、長年課題だった財務体質の改善を最優先に取り組んできましたが、前中計の成果を踏まえ第7次中計では企業価値の向上をテーマに据えました。

東京証券取引所の上場企業は、PBRが継続して1倍を下回る場合、改善の取り組みや進捗状況の開示を要請されていますが、当社はそれに先駆けて企業価値に対する考え方を 示すことができました。

 

Vision2030の大きな柱の1つが、グリーン電力サプライチェーンの強化です。従前から風力発電を中心とした再生可能エネルギー事業を拡大してきましたが、発電領域にとどまらず、電力調整や蓄電および、その先の販売も含めたサプライチェーンを1つにつなげ、強化していきます。

当社グループは、長年にわたり日本のエネルギーの安定供給の一端を担ってきました。世界的な脱炭素の流れと、これからもエネルギーの供給責任を果たしていくという意思を重ね合わせた際、グリーン電力サプライチェーンを強化することが、当社として果たすべき役割だと考えています。また、それを実現するためのビジネスの多くを、既に保有しています。

再エネ発電の領域では、風力発電国内3位の実績があり、今後も計画に沿って着実に事業を拡大します。洋上風力では競争環境が厳しくなっていますが、ここ2~3年を勝負の年と捉えています。需給調整・蓄電領域では、日本全体で再生可能エネルギーの供給が増える一方、需給のミスマッチにより、せっかく発電した電気を捨てざるを得ない事態が起こり始めています。この解決には、需給の調整機能や、発電した再生可能エネルギーを蓄電する方法が必要です。エネルギーを大切に使うという意味で非常に重要な機能であり、2023年度から蓄電事業の実証をスタートする計画です。グリーン電力販売の領域では、グループ会社を通じて販売実績があります。今後は、エネルギーマネジメントを含めたソリューションとして販売したり、EV車のリース販売とともに提供したりするなど、多様な商品開発に取り組みます。

このような事業やノウハウをつなげ、シナジーを創出することで、発電単体ではなくサプライチェーン全体を通じてマネタイズすることができると考えています。これらを実現するために、2030年までに3,000億円の戦略投資を実施する計画です。

 

2つ目の柱である次世代エネルギーの拡大については、日本初の国産SAFの量産化、水素サプライチェーンへの参入を図ります。SAFについては、日揮ホールディングス社、レボインターナショナル社と廃食用油を原料とするSAFの量産化を目指し、合同会社SAFFAIRE SKY ENERGYを設立したほか、三井物産社とは同社が出資する米国Lanza Jet社の技術を活用したエタノールを原料とするSAFの製造・供給に向けて共同検討を始めています。

水素サプライチェーンでは、岩谷産業社と今年2月に水素ステーション事業の合同会社を設立しており、2024年度にはトラック向け水素ステーションを開所する計画です。

これらの取り組みに対し、2030年までに1,000億円の戦略投資を行う計画です。

 

3つ目の柱は、石油事業の競争力強化と低炭素化です。脱炭素の流れが進むことは間違いありませんが、その時間軸が非常に重要になると考えています。EVなどの普及が進む中でも、2030年頃までは石油製品がエネルギー需要の大きな比率を占めるとみられ、それまでの間は安定供給の責任を果たしていく必要があります。

世界的に見ても、石油はまだまだ重要なエネルギー資源です。現在、当社グループが権益を保有する鉱区はリスクの低いものに絞り込まれていますが、安定供給の責任を果たすためにも一定程度は事業として継続する必要があると考えています。また、先に述べたように、第6次中計では製油所の安全安定操業が稼ぐ力の向上に大きく寄与しました。今後は、DXの活用などにより稼働率を向上させ、さらなる高効率化を図ります。

一方で、低炭素化にも注力します。石油精製、石油化学の燃料転換や、アブダビ首長国との強固な関係性を活かし、同国の国営石油会社とCCS/CCUSなど脱炭素分野での協働を図ります。

期待に応える資本政策、経営基盤の変革

これまで当社グループは財務体質改善を最優先に取り組んできましたが、第6次中計期間中に一定の改善が図られました。第7次中計のテーマである企業価値向上の実現について経営陣で議論する中で、収益力の向上や成長期待を高めるのと同時に、バランスの取れた資本政策を示す必要があるとの結論に至り、今回初めて資本政策を公表しました。

 

新たな資本政策の考え方は、株主還元、財務健全性、資本効率の3つの要素を、欠けることなく、偏ることなく成長させていくことで、企業価値の向上を実現するというものです。

株主還元のうち総還元性向については、収益力をベースに成長戦略の実行に必要な投資と財務健全性のバランスを見つつ、資本市場からの期待値も認識した上で、3ヵ年累計で60%以上としました。配当金については、1株あたり200円を下限とした安定配当を実施します。第7次中計期間中の事業環境を鑑み、当社の実力であれば、外部環境に多少の変化があったとしても実現できる水準をコミットしています。

財務健全性については、複合的な観点で精査し、ネットD/Eレシオ1.0倍、自己資本6,000億円以上を目標値としました。具体的には、リスクへの対応という観点で、国内外の類似企業をセグメント毎に選定し、過年度の業績を分析して資産に内在するリスクおよびリスクをカバーするための必要資本を算出したほか、求められる資本効率、今後脱炭素の流れが加速する中でも柔軟な資金調達が可能である水準などを考慮しています。

 

 第7次中計期間中は、New領域の拡充のための投資が拡 大しますが、資本効率についてはROE10%以上を安定的に 創出することを目指します。

 資本政策について株主・投資家の皆さまと対話する中では、数字だけでなく考え方も含めて中計でコミットメントとして開示したことに、一定のご評価をいただいていると認識しています。今後はこれをしっかり運用していくことで、ご期待に応えていきます。

第7次中計では、経営基盤の変革として3つのトランスフォーメーションに取り組む

当社グループにとって最も重要な資産である人材については、意欲・自律性と能力・多様性の両面で取り組みを進めます。従業員アンケートの結果では、社員同士の関係性、人間性に好意的な回答が多く、チームワークの良さが当社グループの強みになっていると考えています。一方で、変革期においてはチーム内で切磋琢磨することによる摩擦や、個々人の成長への意欲の強さも重要です。制度面の整備や教育プログラムは会社側で準備しつつ、社員個々人の能力を高めることを促し、最終的には会社に対するエンゲージメント向上につなげていきます。

DXについては、拡大余地が大きい領域です。代表例を挙げると、コスモブランドのサービスステーションを利用するお客様に提供している「カーライフスクエアアプリ」の購買データや、製油所の運転・保全データなどを活用することで、既存のサービス・事業の改善だけでなく、新たなビジネスの機会にしたいと考えています。この推進のために、全社的にITリテラシーを高めつつ、さらにその中で900名のデータ活用コア人材※を創出する計画です。

GXについては、2050年にScope3を含めたカーボンネットゼロを目指します。現在の削減貢献の中心は風力発電事業ですが、CCS/CCUSなどの新しい分野にも取り組んでいきます。また、グループ全体でみると石油化学事業のCO2排出量も大きいことから、アンモニアへの燃料転換の検討など、社外とも連携して対応を進めます。

 

サステナビリティ経営の根幹として、当社グループはこれまでガバナンス改革にも積極的に取り組んできました。取締役会の透明性という観点では、現在9名の取締役のうち、4名が独立社外取締役です。また、多様性の観点でも3分の1が女性で、1名は執行も兼ねた取締役です。こうした改革の効果もあり、取締役会では非常に活発な議論がなされています。

スキルマトリックスについては毎年見直しを行っています。その中では、項目の議論に加えて、執行役員クラスに至るまでグループ全体での過不足がないかを点検し、将来の幹部候補となる人材のパイプラインにも目配りをしています。

 

※ データ利活用を先導する人材(データサイエンティスト・データエンジニア・データストラテジスト)