COSMO

トップメッセージ

Oil & New ~Next Stage~ 企業価値向上の実現に向けて

代表取締役社長 社長執行役員
山田 茂

2023年度の振り返り

社長就任から1年を振り返って

新体制をスタートさせ1年が経ちましたが、就任前に思い描いていたことがいくつか実現できた一方、新たな課題も明確になり、総括すると“企業価値の向上”に向けて確実に前に踏み出せた年だったと感じています。

外部環境は、ウクライナ情勢をはじめ、イスラエル・パレスチナ情勢、緊張が続く台湾海峡など、さまざまな対立により、地政学上のリスクが高まった状況が続いています。一次エネルギーの90%近くを輸入に頼るわが国では、サプライチェーンの分断等、エネルギーセキュリティの重要性が一層高まっています。

また、近年、地震などの大規模な自然災害が頻発しており、持ち運びや貯蔵、使用する際の利便性が高い石油製品の重要性が改めて認識された年であったと感じています。温室効果ガスの削減に取り組むことはもちろんですが、同時に石油製品の安定供給を果たすことが当社の使命であることを改めて実感しました。

Vision2030で掲げた「未来を変えるエネルギー」としてのNew領域の拡充を進めると共に、現在の「社会を支えるエネルギー」であるOil領域にもしっかりと取り組み、Oil&Newを両立させていくことが重要だと考えています。

第7次中計の進捗

第7次連結中期経営計画(以下、第7次中計)初年度の当社グループの業績は、事業を取り巻く環境が比較的良好だったことに加え、社員一丸となった取り組みにより一定の成果を残すことができました。第7次中計では、持続的な企業価値の向上をテーマに掲げていますが、着実に一歩を踏み出すことができたと感じています。

特に、Oil領域の事業は6次中計期間で培った稼ぐ力の強化が功を奏し、製油所での計画外停止は若干あったものの存在感と強みを発揮することができた1年でした。一方で、New領域は少し時間軸の長い事業が中心ということもあり、まだ成果が具現化していない部分もありますが、失敗を恐れず挑戦していくことが必要です。この点は私が先頭に立って進めていきたいと考えています。

Oil領域の取り組み

Oil領域では、収益力確保のために、製油所の高稼働・高効率操業の実現に取り組みました。収益力の基盤となるのは、やはり安全安定操業です。

当社は、2016年から全社統一のマネジメントシステム「操業マネジメントシステム(OMS)※1」を運用していますが、その強化を図っています。OMSは一朝一夕に効果が出るわけではなく、連綿と改善と検証を重ねていかなければなりません。導入から既に約10年が経とうとしていますが、製油所で勤務する一人ひとりの安全に対する意識を高め、ちょっとしたことでも見過ごさないことが安全へのこだわりに結びつき、いずれは企業文化の域にまで達するものになると確信しています。これまで築いてきた安全に対する企業文化を絶対に後退させることなく、より高い次元に到達させられるよう取り組みを継続していきます。

また、2023年度からDXの取り組みとして、APMシステム※2の運用を開始するとともに、デジタルツイン※3構築に向けた施策を進めています。APMシステムに製油所の設備のデータを集約し、故障を事前に予測することで、計画外停止の削減を図ります。また、製油所を仮想空間に再現し、AIによるシミュレーションを組み合わせることで、さらに広範囲にトラブルリスクを低減します。

 

2050年のカーボンネットゼロに向けてエネルギー業界は変革期を迎えていますが、当社の使命であるエネルギーの安定供給のため、安全に対する企業文化にDXの取り組みを加えることで、安全安定操業を追求していきます。

 

※1 OMS:コスモ石油グループ製油所部門が安全操業・安定供給の実現に不可欠な重要項目として、23の要求事項で構成される取り組み方針を定め、それを基に本社と製油所がそれぞれの取り組みと連携を強化する仕組み。

 

※2 APMシステム:Asset Performance Managementの略。グローバルスタンダードの保全・設備信頼性業務プロセスをシステムに記憶させ、保全のビッグデータを効率的かつ効果的に管理し、網羅性・予見性・管理性を高めることができる。

 

※3 デジタルツイン:現実の製油所がデジタルの仮想空間で再現され、必要とする製油所設備の情報(運転データ、補修履歴、機器スペック等)をすぐに参照できる状態を作り出すこと

New領域の取り組み

成長に向けたNew領域の拡充としては、グリーン電力サプライチェーンの収益基盤の確立と、日本初の国産SAF量産化に向けた施策を推進しました。

グリーン電力サプライチェーンは、再生可能エネルギー発電、需給調整・蓄電および、グリーン電力販売の3つの事業で構成されます。

再生可能エネルギー発電では、陸上風力において2023年に上勇知ウィンドファーム(北海道)と大分ウィンドファーム(大分県)が運転を開始し、順調に進捗しています。洋上風力では、競合他社の増加やコストの上昇など事業環境の厳しさが増していますが、世界的な脱炭素の流れを受けて大規模なグリーン電源に対する期待は高まっており、当社としてはしっかりと収益性を確保した上で、次回以降の入札に向けて準備を進めていきます。

需給調整・蓄電では、2023年度に中央研究所と直営のサービスステーションにおいて、蓄電ビジネスの実証を開始しました。2024年度には、四日市霞発電所においても実証を開始する計画です。実証結果を踏まえて、蓄電池の運用ノウハウの獲得や新たな電力市場取引への参画などを検討していきます。

グリーン電力販売では、2023年度末時点で「コスモでんきビジネスグリーン」の導入施設数が2,400施設を超えました。電力販売量に占めるグリーン電力の構成比が50%に到達し、着実に拡大しています。引き続き、グリーン電力の販売拡大に注力していきます。

 

国産SAFの量産化に向けては、2023年5月にコスモ石油堺製油所において、廃食用油を原料としたSAFの製造設備※4の建設を着工しました。2024年度中の完工および、運転開始に向けて順調に進捗しています。

また、事業展開上の重要な要素である原料調達に関しては、日揮ホールディングス株式会社、株式会社レボインターナショナルとの合弁会社であるSAFFAIRE SKY ENERGYを通じて、外食チェーン、百貨店、空港運営会社、鉄道事業者等、幅広い業種との連携を進めています。

 

※4 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「国産廃食用油を原料とするSAF製造サプライチェーンモデルの構築」助成事業

岩谷産業との資本業務提携

当社は2024年4月に、岩谷産業株式会社(以下、岩谷産業)との資本業務提携契約を締結しました。

当社と岩谷産業は、LPGや石油製品の取引で長年にわたり友好な関係を築いており、2022年には水素事業での協業検討に関する基本合意書を締結し、水素ステーション、エンジニアリング分野、サプライチェーン構築の3つの分野で協業の検討を進めてきました。

今回、2050年のカーボンニュートラルに向けてより一層の連携を深めていくことが、新たなシナジー効果の創出ひいては企業価値の向上につながると考え、契約締結に至りました。今後は、両社の代表取締役を委員長とする提携推進委員会を設置し、既存の事業分野における関係強化に加え、水素分野での協業を含む脱炭素社会の実現に向けた取り組みを加速していきます。

 

これまでの取り組みとしては、2023年に水素ステーション事業の合同会社を設立し、2024年4月に1号店を開所しました。他にも、都有地2か所で水素ステーション整備事業者に選定されており、2025年以降を目途に2号店、3号店を開所する計画です。運輸部門のCO2削減貢献が期待される水素ステーションの展開を今後も進めていきます。


また、2023年には、水素エンジニアリング事業の合同会社も設立しました。当社の製油所では石油精製の過程で製造される水素を取り扱っていることから、水素設備に関するエンジニアリング技術・能力をグループ内で保有しており、岩谷産業が持つ水素分野でのノウハウやユーザーのニーズをマッチングさせることで、収益拡大を図っていきます。

資本政策の進捗

企業価値の最大化をめざす上では、第7次中計で掲げた三位一体の資本政策、すなわち株主還元、資本効率、財務健全性の3つをバランス良く拡大していくことが重要だと考えています。特に、資本効率と財務健全性は、トレードオフの関係にならないよう、収益力を向上させることで最適化していくことが重要だと考えています。

2023年度は、収益の柱である石油事業を中心とした堅調な業績を背景に三位一体の資本政策を実行した結果、株主還元・資本効率・財務健全性の全てにおいて、第7次中計の目標を達成することができました。

株主還元については、期中に配当を2回引き上げるとともに、堅調な利益水準を鑑みて第7次中計期間における下限配当を引き上げました。また、配当に加えて、自己株式の取得も実施することで、2023年度は単年で総還元性向60%の株主還元を実現しました。

資本効率については、製油所での計画外停止はあったものの、第6次中計期間中から取り組んできた稼ぐ力の強化により、ROEが目標の10%を大きく超過しました。

財務健全性についても、収益性の向上により中計初年度からネットD/Eレシオ、自己資本の目標を達成しています。

資本政策
一株当たり配当金

経営基盤の変革

HRX・DX・GXの取り組み

第7次中計では事業戦略を支える経営基盤の変革として、HRX、DX、GXの取り組みを推進しています。

HRXは「人が活き、人を活かす人材戦略」を方針とし、経営戦略と人材戦略を一体化させ、会社と社員を成長に導く取り組みを進めています。2023年度はKPIとしていたエンゲージメント指数60ポイント以上を達成、人材育成投資も一人当たり13万円を実行し順調に進捗しています。

また、KPIの達成と同様に重要なことは、社員一人ひとりの成長です。会社の業績が向上しても社員個々人の成長が伴わなければ、持続的な企業価値の向上は難しいと考えています。

そのためには、社員自身が自発的に成長していきたいという自律性、主体性が不可欠ですので、働きやすい環境の整備やスキルアップのためのプログラムの充実を進め、環境の整備が社員の意識・行動の変革につながる好循環を生み出すことをめざします。

DXについては、推進基盤の整備とデジタル人材の育成に取り組んでいます。2025年度までにデータ活用コア人材を900名創出するというKPIを掲げていますが、2023年度は初年度で目標の3分の1を超えており、確かな手応えを感じています。

また、育成を通じてDXリテラシーの向上を図ることで、トップダウンだけでなく、現場からのボトムアップで潜在的なアイデアを吸い上げ、それをCDO CUP※5などのDXイベントを通じて具現化するという仕組みを整えています。Oil領域の取り組みでふれた、製油所におけるデジタルツインの取り組みもその1つです。

 

最後にGXについてですが、2050年のカーボンネットゼロに向けたロードマップの実現は、全く揺るぎのない目標です。そのマイルストーンとなる2030年には、2013年度比でGHG排出量を30%削減する計画です。2023年時点では、数字としてはまだ大きくはないものの、計画に対して順調に進捗しています。

2023年度の具体的な取り組みとしては、GXリーグへの参画を表明したほか、CCS※6バリューチェーンの構築に向けて、電力会社、海運会社などと協業についての検討を開始しました。また、回収したCO2を有効活用するべく、有望な技術を持つ複数の企業と共同検討を開始しています。このように、将来のCO2削減に向けた取り組みを、着々と進めています。

 

※5 CDO CUP:DX案件の実行度を高めるためのコーポレートDX戦略部による支援を提供する社内プログラムと表彰制度。

 

※6 CCS(Carbon dioxide Capture and Storage):排ガスからCO2を回収し、地中等に貯留する技術。

ステークホルダーの皆さまへのメッセージ

コーポレート・ガバナンスの強化

当社は第7次中計で企業価値の向上をテーマとしていますが、その実現のためには会社の重要な方向性を決める、執行に対して監督機能を果たすことができる取締役会が重要です。取締役会に必要な外部の視点や、ジェンダー、スキル、経験面での多様性は、その役割を果たせるかどうかという点が考慮される必要があると考えています。また、事業環境が複雑さを増すなかにおいては、従来のモニタリング機能に加えて、アドバイザリング機能も求められています。

当社の取締役会は、独立社外取締役が半数を占め、女性取締役の比率も3分の1に達するなど、持続的な企業価値向上のために必要な透明性、多様性を強化してきました。また、企業経営の豊富な実績がある方々に新たに取締役会に加わっていただき、アドバイザリング機能の強化も図られると考えています。当社の取締役会は、社外取締役の方もコメントされているとおり、非常に発言しやすい雰囲気になっており、自由闊達な議論を重ねています。加えて、社外取締役の方々に対しては、現場での見学や勉強会などの機会を可能な限り設けるとともに、そうした場でのフリーディスカッションも大切にしています。こうした取り組みにより、議題の事前説明の際に、社外取締役の方々からさまざまな質問や意見をいただいており、取締役会の実効性は確実に向上したと実感しています。

企業価値向上への新たな決意

当社の株価はこの1年をかけて大きく上昇し、2017年以来6年ぶりにPBR(株価純資産倍率)は1倍を超えることができました。

PBRはROE×PER(株価収益率)と言われていますが、ROEはグループ全体の収益性の向上、資本政策の実行により、高い水準を実現できていると評価しています。一方、PERについてはもう少し上げていく余地があるという認識です。将来に向けた成長の柱であるNew領域については、時間軸の長い事業もあり、株主・投資家の皆さまに将来性をお伝えしきれていないところもあると思っています。この点に関しては、New領域の成長ストーリーとともに、実績を着実に積み上げながら、社長の私自らがお伝えしていく必要があると考えています。従前より、資本市場との対話に力を入れてきましたが、New領域における当社の取り組みをより一層ご理解いただくためにも、株主・投資家の皆さまとのエンゲージメントを充実させていきます。

また、PBRは1倍を超えましたが、企業価値向上の観点からは決してゴールではなく、むしろようやくスタート地点に立てたという認識です。持続的な企業価値の向上に向けては、財務面での経営目標の達成はもちろんのこと、株主・投資家の皆さまをはじめ、社員や取引先、金融機関、行政、お客様や地域住民の方々など、あらゆるステークホルダーの皆さまからコスモエネルギーグループはいい会社だとご評価いただくことが必要です。このことを踏まえても、中期経営計画の初年度は財務面も含めて一歩前進できたと実感しています。

2024年度以降も第7次中計の達成、さらにその先のVision2030の実現に向けて、さらに二歩、三歩と着実に前進し、企業価値向上に全力を尽くしていきます。エネルギー業界は大きな変革期を迎えていますが、これまでの延長線上にはないコスモエネルギーグループの新たな成長にぜひご期待ください。