COSMO

特別対談:三位一体の資本政策

第7次中計の成果を経て、
三位一体の資本政策とともに
新たなステージへ

代表取締役
常務執行役員
経営企画部、財務部担当 松岡 泰助

みずほ証券株式会社
エクイティ調査部
シニアアナリスト 新家 法昌氏

第7次中計の資本政策に込めた想いと資本市場からの評価

松岡
当社グループは、2011年の東日本大震災による事故の影響や、原油価格の下落による大規模な在庫評価損の計上などにより、財務健全性が著しく損なわれた状況が続いていました。
第6次連結中期経営計画(以下、第6次中計)では、収益力とそれに基づく財務体質の強化という課題に取り組み一定の成果を上げられたことで、第7次連結中期経営計画(以下、第7次中計)では収益力、資本政策、成長期待の3つの柱に基づく企業価値の向上をテーマに据えています。
新家氏
長年、セルサイドアナリストとして貴社を見てきましたが、第6次中計までの取り組みで基盤固めが進み、足腰がしっかりしたところで、第7次中計では大きな一歩を踏み出したという印象です。
松岡
その第7次中計で公表した資本政策においては、「三位一体」をキーワードとし株主還元、財務健全性、資本効率の3つの要素を欠けることなく実行していくことで、持続的な企業価値の向上につなげることとしました。
新家氏
資本政策については、株主還元の意欲的な目標に加え、投資家が重視する資本効率に対する姿勢を財務健全性の目標に反映させたことが、株式市場からの評価につながったと捉えています。具体的には、総還元性向の目標60%以上は同業他社よりも10ポイント程度高い水準であり、財務健全性についても「改善」という方向性だけでなく、資本効率も意識した上で自社として考える適正値を自己資本でみて6,000億円と示し、それ以上の場合は原則株主還元する考えを示した点は、エネルギー業界では前例のないシンボリックな動きだったと受け止めています。

第7次中計2年間の実績と課題、投資家の着眼点

松岡
第7次中計では、企業価値向上のために3つの柱を掲げましたが、やはり収益力を高めなければ株主還元も成長投資も実現できません。その土台となる収益力は、ショートポジション戦略が強みの石油事業と、アブダビ首長国の収益性の高い鉱区で長年にわたり安定操業を続けている石油開発事業が支えています。
新家氏
世の中の流れとしては新しい取り組みが注目されがちですが、投資家は積み重ねた歴史、強みがある事業に集中的に資本を投下し、効率的かつ高水準のリターンを生んでほしいと考えています。貴社の場合も、本業である石油事業と石油開発事業に限られたリソースを集中し、そこから高いリターンを上げています。これが同業他社と比べて高いROEにつながり、株式市場からも評価されていると考えています。
カーボンニュートラルのトレンドや、日本国内の人口減少に伴う石油製品の需要減少を不安視する声もありますが、株式市場として一番期待しているのは、まず自社の強みのある分野でしっかりと収益を上げることです。そして、そこから得られたキャッシュをいかにバランス良く、成長投資や株主還元、財務健全性に振り分けていくのか、ここを投資家は厳しく評価していると思っています。この観点では、過去2年間を振り返ると、貴社は株式市場から一定の信認を得られていると思います。
松岡
株式市場からもご評価いただいているように、第7次中計の2年目の時点では主要な財務KPIはほぼ達成しており、当社が計画していたとおりの資本政策が実現できている状況です。
一方で、収益面と投資の観点から、2つの課題があると認識しています。収益面では、石油化学事業の市況が第7次中計策定時点の想定と大きく乖離しており、厳しい収益環境に直面しています。これに対して、2024年度に韓国HCPの株式を売却してパラキシレン事業から撤退したほか、千葉地区における生産最適化を意思決定するなど、合理化と効率化に舵を切りました。
投資の観点では、事業環境の悪化に伴い、洋上風力発電事業の公募入札を見送りました。また、マーケットが未成熟なために投資の判断に至らなかった案件などもあり、結果的に成長分野への投資が先送りとなっています。こうした要因により、成長期待への訴求力が不足していると感じています。
新家氏
株式市場が重視するROEの観点では、過去2年間の平均が約14%と第7次中計目標の10%以上を大きく上回っているだけでなく、同業他社と比べても高い水準であり、非常に高い資本効率を実現されていると評価しています。株主還元もKPIに基づき着実に実施されており、配当水準も引き上げている点は特筆すべき取り組みです。
先ほど松岡さんが課題として挙げられた2つの点は、むしろ経営のアクションが評価につながっている面もあります。事業の縮小や撤退の判断は、社員をはじめさまざまなステークホルダーに与える影響が大きく、簡単な経営判断ではないと思いますが、経営課題に対して迅速に判断し対応されている点は、中計2年間のトラックレコードとして評価できるポイントです。
また、洋上風力発電事業についても、New領域の一番の軸として期待値が高かった中、収益性や資本効率の観点から投資を見送ったというのは難しい判断であり、高い資本効率の裏に隠れた苦渋の決断というところも評価できると考えています。

第7次中計最終年度に対する期待

松岡
2025年度は第7次中計の最終年度となりますが、中計でコミットした目標を実現するという点は、今年度においても変わりありません。
当社の三位一体の資本政策は、株主還元・財務健全性・資本効率の3つの要素がすべてつながっています。1つの要素が変化すれば、ほかの要素も変化しますが、すべてが予定どおりであれば、設定したKPIの目標値に到達するというものです。
新家氏
第7次中計のKPIは順調に達成されているので、自己資本6,000億円を超えた部分の追加の株主還元が注目点になろうかと思います。
松岡
株主還元については、中計3ヵ年累計の総還元性向60%以上の目標達成に向けて、計画どおり実行したいと考えています。追加の株主還元についても収益が想定を超え、予定している投資を実行した上で、ネットD/Eレシオが1.0倍を達成し、自己資本が6,000億円を超えた場合には、不必要に資金をため込むことなく約束どおり実施する考えです。
新家氏
「6,000億円」というのはシンボリックな数値ではありますが、これは第7次中計発表当時の事業ポートフォリオと、各セグメントのリスクを踏まえて、貴社として初めて必要な自己資本の金額を明確に示したものだと受け止めています。数値自体は、その時々の事業環境によって変動する可能性があると捉えていますが、重要なのは経営陣がバランスシート上の自己資本の適正値を認識した上で、キャッシュ・フローの配分を決めるということです。そういう意味で「6,000億円」は、株式市場が貴社のガバナンスを信頼するためのわかりやすいKPIの一つになっています。こうした姿勢は引き続き重視していただきたいと考えています。

次期中計での資本政策の方向性と成長ストーリーの重要性

松岡
中長期的な企業価値の向上は、今後も普遍的に取り組んでいくテーマです。現在、社内で次期中計の策定に向けた議論を重ねている段階ですが、三位一体の資本政策に込めた考え方は次期中計においても踏襲していきたいと考えています。
財務健全性のうち、必要自己資本については、自社の置かれた環境に応じて変化するものだと考えています。足元で進む急速なインフレも環境変化の一つですが、資本効率、成長投資に伴う財務健全性への影響、株主還元のバランスを保つという考え方を前提として、検討を進めています。
新家氏
貴社は第7次中計期間中に着実に実績を残されているので、株式市場としてはさらに高いリターンを期待していると思います。特に、資本効率はすでに高い水準にありますが、さらなる高みをめざしていただくことを期待しています。
また、資本効率の向上には利益水準の引き上げが必要で、そこには成長ストーリーも欠かせません。中計の時間軸ではどうしても現実的な領域、貴社の場合はOil領域をより筋肉質な収益体質にできるかが期待されるところです。一方、株式市場から一定の信任を得ている今だからこそ、いかに三位一体のバランスを保ちながら、リードタイムの長い分野に成長の種まきをするのかを打ち出せる機会であるとも考えています。その際には、自社の現在の事業ポートフォリオの中にある強みが新たな領域で応用できるというストーリーを示し、そしてそのストーリーに対して多くの投資家に共感していただくことが最も重要であり、難しい点です。特に、New領域の事業への投資においては、世の中に必要とされていることは当然ながら、それが事業として成り立つのかという観点も欠かせません。貴社がその事業が成立すると判断した際に想定している中長期的な外部環境の前提や、どの程度の投資とリターンの水準をみているか、リスクケースにおける対処策の内容などをできるだけ具体的に説明することが、株式市場からの成長期待を高めていく一助になるのではないでしょうか。
松岡
新家さんのおっしゃるように、株主還元はもちろん重要ですが、持続的に企業価値を向上させていくためには成長投資も不可欠です。2024年度には、国内初となる国産SAFの大規模生産実証設備を立ち上げました。SAFの市場は未成熟な段階ですが、需要がしっかりと期待できる事業については着実に投資を実行していきます。
次期中計策定の議論においては、比較的短期間で収益に結びつくアクションと、将来の種まきのバランスを取っていきたいと考えています。
新家氏
株式市場においては、投資家が運用資金をどの企業に託せば最も増やしてくれるのかと考え企業を選別しており、投資家からの信頼が高い会社ほど資金が集まり株価が上がっていくことになるとみています。その観点では、企業として、成長事業があるだけでなく、資金の使い方に投資家からの信頼感があることが株価形成上も重要と感じており、そのために必要なこととして、できるだけ企業と投資家との間にある情報格差を減らし、将来の事業戦略や資金配分方針等を可視化していくことがポイントになると感じています。
松岡
現在の資本政策のベースとなる考え方は、これからも踏襲していきたいと考えています。そして、成長に向けた事業戦略とともに、少しでもわかりやすく資本市場の皆さまにご説明していくことが当社の責務だと考えています。次期中計における当社の資本政策に、ぜひご期待ください。