COSMO

特別対談:コーポレート・ガバナンス

“良いガバナンス”を
どう築き、
どう進化させるか
コスモエネルギー
グループの
現在地と
これから

代表取締役社長
社長執行役員 山田 茂

東京都立大学 大学院 経営学研究科 教授/
東京都立大学 経済経営学部 教授 松田 千恵子氏

松田氏プロフィール

経営戦略、特に全社戦略(事業ポートフォリオマネジメント)、財務戦略と企業統治に関する研究、教育、実務に携わる。株式会社日本長期信用銀行にて国際審査、海外営業等を担当後、ムーディーズ・ジャパン株式会社 格付アナリストを経て、経営戦略コンサルティング会社である株式会社コーポレイトディレクション、ブーズ・アレン・ハミルトン株式会社でパートナーを務め、現在に至る。東京外国語大学外国語学部卒、仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士、筑波大学大学院企業科学研究科博士後期課程修了、経営学(博士)。一般社団法人日本CFO協会主任研究委員。そのほか、事業会社の社外取締役、政府・公的機関の委員などを務める。

ガバナンスの「原点」としての2015年:執行強化への大きな転換

山田
当社グループは、2011年の東日本大震災で主力工場である千葉製油所が被災し、大きなダメージを受けました。その後、数年にわたり、製油所が十分に稼働できず損益は悪化し、非常に厳しい時代が続きました。そのような状況下、グループの中核事業である石油開発、石油精製・販売、石油化学の「業務執行」をさらに強化する必要があると考え、2015年に持株会社化し、同時に監査等委員会設置会社とすることで体制の強化を図りました。これが現在に至るコーポレート・ガバナンス強化への起点となります。
松田氏
2015年に監査等委員会設置会社の制度が設けられ、現在は約1,600社がこの機関設計を選択していますが、初年度に移行されることはかなり勇気のいる決断だったのではないでしょうか。
山田
今のままではいけない、変えなくてはならないという強い意志を持っていたからこそ、実行に踏み切れたと思います。2015年以降も継続してガバナンス改革に取り組んできましたが、結果的に、業務執行においては迅速化が図られ、モニタリングの強化が進んだことで経営の透明性・効率性が高まり、リスクマネジメントも強化されたと感じています。
松田氏
企業のコーポレート・ガバナンス改革への取り組みにおいては、コーポレートガバナンス・コードが導入されたから対応しなくてはならないという受け身の姿勢も多く見られます。コーポレート・ガバナンスを強化しようとしても、それを受けるマネジメントが確固たる方針や考えを持っていなければ、形式的にコンプライすればよいといった話になってしまいます。貴社の場合は、経営や執行を強化しなくてはならないという強い意志があったことが非常に印象的で、マネジメントを強化するためにガバナンスから切り込むというのは本来あるべき姿であり、それが良い結果につながっていると思います。
山田
業務執行の迅速化については、例えば製油所で何か少し大きな業務改革に取り組もうとなった時、従前の体制では改革の意思決定までにいくつもの手続きがあり、経営陣に上がるまでに時間がかかり、現場は経営陣との間に距離を感じていたと思います。現在はホールディングス体制のもと、各事業会社にかなり大きな権限と責任をセットで委譲しており、意思決定までの時間は短縮され、現場と経営陣の距離は非常に近いものになったと思います。私が現場に出向く際にも、スタッフやメンバーと話をすると率直に自分の意見を言える職場になって実行度が上がっているのが感じられ、現在の体制が機能し良い効果を生んでいることを実感します。ただ一方で、ホールディングス体制にもデメリットがあり、間接部門がどうしても重複するところが出てくることや、会社間のコミュニケーションが知らず知らずのうちに希薄化しているところがあると認識しています。重複のような無駄を徹底的に排除すること、会社間のコミュニケーションを良い状態に保つことは、私を筆頭に各事業会社の経営陣の役割です。常に意識して取り組んでいきたいと思います。
松田氏
持株会社体制となり意思決定プロセスが長くなったという企業も多くありますが、貴社は各事業会社にかなり権限を委譲され、自由に動けるようにしているのは、非常に大事なことだと思います。

ガバナンスの「進化」としての2022年:取締役会の改革と再構成

山田
当社は2007年に第三者割当増資を実施し、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ政府系投資会社であるInternational Petroleum Investment Company※1(現 Mubadala Investment Company※2、以下、IPIC)が筆頭株主になり、取締役2名を受け入れるなど関係を深めました。最終的に、2022年に当社からの出資を引き揚げ株主ではなくなりましたが、当時の取締役会では、50年以上前から今でも続くアブダビ首長国との信頼関係をベースに、忌憚のない意見が飛び交い熱い議論が幾度となく交わされました。取締役会が活性化していくきっかけになったと感じています。
松田氏
長年にわたり、長期志向の株主からさまざまな示唆や助言をいただき、それに対応してきたことで、今に続くコーポレート・ガバナンスの土台が整ったということですね。
山田
2015年に持株会社体制に移行した際は、取締役は10名で、そのうち、社外取締役はIPICの2名、独立社外取締役は監査等委員(非常勤)の2名でした。その後、2019年に女性の取締役が初めて誕生し、社外取締役も徐々に増え、現在、取締役は12名で、うち6名が独立社外取締役と半数を占め、また女性取締役は4名で3分の1となっています。2022年には取締役会の改革を行い、業務執行の権限を執行側へ大幅に委譲し、外部環境の変化に対応した迅速な経営判断を可能にしています。
松田氏
社外取締役については、キャリアが偏ると同質的な意見しか出てこなくなり、経営者ばかりだと経営者にやさしくなってしまうといった懸念があります。社外取締役の皆さんの経歴を見ると経営経験者が多いですが、業界はさまざまで、スキル、ジェンダーにも多様性があり、良いチーム編成になっているのではと感じました。
山田
2024年に新たに社外取締役に就任された2名は、エネルギー関連ではない企業の経営経験者ですが、エネルギーという視座とは違う観点でのご意見を多数いただき、あらためて多様性の確保は非常に重要だと実感しています。現在の独立社外取締役6名の中には行政での経験や弁護士経験のある方もおり、バランスのとれた体制になっていると考えていますが、引き続き多様性の確保には努めていきたいと思います。社外取締役には常日頃から社内スタッフなどへのヒアリング、ミーティングなどを通じて当社への理解を深めてもらっているのはもちろんのこと、現場にも積極的に訪問してもらい、現場の実態や肌感覚的なものへの理解にもつなげています。また、投資家との対話についても、投資家サイドとのスモールミーティングで執行の役員を除いて直接対話していただいています。取締役会ではそういったご理解のもとにさまざまな意見、提言、質問が出てくるので、非常に重みのある、鋭いものが多数あります。
  1. International Petroleum Investment Company:アブダビ首長国政府が100%出資する投資会社
  2. Mubadala Investment Company:アブダビ首長国100%出資のエネルギー関連投資会社。International Petroleum InvestmentとMubadala Development Companyが統合し、持株会社として設立

実効性を支える「仕組み」:対話と評価の循環構造

松田氏
取締役会では、活発な議論が行われているのでしょうか。
山田
自由闊達な議論が行われ、非常に充実していると感じます。多様なバックボーンの社外取締役がさまざまな視座から意見を出し合いますので時間が不足しがちになりますが、企業価値向上という共通認識のもと、良い議論ができていると思います。また、取締役会のほかに、社外取締役だけで議論するミーティング(エグゼクティブセッション)も年3回程度実施しており、取締役会での議題以外についても意見交換していただいています。この中で出てきたさまざまな改善点や要請は、私や事務局に報告いただいており、ガバナンス強化に大きな役割を果たしていると感じます。取締役会の実効性評価は2015年から実施しており、調査票をもとに意見をいただき、これをベースに議論し課題を抽出しています。一般的な評価プロセスだと思いますが、2023年度には客観的な視点や外部の知見を取り入れるため、第三者機関の協力を得て実効性評価を実施しました。これは、社外取締役からの提言をもとに実施したものです。この第三者機関を交えた評価においても、忌憚なく意見交換ができていることやモニタリングをしっかり行っていることなどが確認できました。今後も、第三者機関を起用した評価を定期的に実施したいと考えています。その一方で、社外取締役から、取締役会の議論をさらに深めたいという要望もありました。私としては取締役会で十分に議論できていると考えていたのですが、案件によってはもう少し議論したいという要望があることをあらためて認識しましたので、今後は事前説明、エグゼクティブセッションなどを含めさらなる議論の深化に取り組んでいきたいと思います。
松田氏
一般的に、取締役会事務局や執行側の方から、社外取締役の皆さんに多くの時間を使っていただくのは申し訳ないということを聞きますが、社外取締役側からは、しっかり議論するための時間を設けてほしいという要望も多くあります。そのためにエグゼクティブセッションや合宿などを行えば、そこで議論をさらに深めることができます。それを経営にフィードバックすることで、企業価値向上につながっていく、そのようなフィードバックループを意識されているようにお見受けしました。
山田
急な時間の変更や延長はスケジュール上問題がありますが、例えば年間の予定を決める際に、特定の案件はエグゼクティブセッションなどで議論することをあらかじめ計画するのは、社外取締役にとってむしろ望ましいこと、と伺っています。
松田氏
そうですよね。私もそうですが、社外取締役の多くは、スケジュールさえ事前に調整いただければ、週末も含めて議論に時間を使うことには問題ないかと思います。取締役会の時間内では、少々議論が足りず、不完全燃焼で終わるテーマというのが多くあります。そういったところで、1日かけてエグゼクティブセッションという機会があると、かなり深く議論することができます。加えて、そのような場では、執行側が実際に何を考えているのかといったことがわかりやすいので、時間を使っていただくのは大歓迎ですし、貴社の社外取締役の皆さんもそのような考えで、さらに議論を深めていきたいと考えているのではないでしょうか。

財務と非財務の一体化:サステナビリティガバナンスの実現に向けて

山田
当社の機関設計として、2021年度に、サステナビリティに特化した議論を行うためにサステナビリティ戦略会議を設置しました。この会議体を取締役会の下部にある経営執行会議と並列の形で設置し、議題は、財務系は経営執行会議、非財務系はサステナビリティ戦略会議とすみ分け、それぞれの会議体の議長をともに社長が務めることでバランスを図り、これまで進めてきました。それから4年が経過し、サステナビリティ経営が会社全体にかなり浸透してきたこと、また本来、財務と非財務は不可分であり一体化して議論していく必要があるとの認識のもと、2025年度からは経営執行会議にすべてを統一し議論するように体制を変更しました。
松田氏
貴社の場合は業種特性上、財務と非財務を分けるのが難しいと感じました。特に環境面に関しては、サステナビリティ、イコール、経営そのもの、イコール、戦略そのものみたいな会社だと思います。
山田
おっしゃるとおり、分けて議論することの難しさもあったのですが、サステナビリティの重要性を社員全員に理解してもらいたいという思いもあって、当初はあえて2つの会議体、体制としていました。しかしながら、本来は不可分なものです。財務と非財務を一体化した現在は、より具体的に、充実した議論ができていると感じています。
松田氏
サステナビリティが経営戦略の中に包含されていることを担保し、将来に向けた統合された企業の姿をつくり、発信するのはトップマネジメントの仕事になりますが、その将来像に沿って、行うべきことを具体的なKPIとして設定し周知徹底したり、現状把握に努めるのはミドルマネジメントの仕事だと思います。そこがうまく切り分けられてない会社もまだまだ多いです。サステナビリティに関するガバナンスを3段階に分けると、最後の段階ではサステナビリティ委員会がなくなり、トップマネジメントの中でごく自然に統合されて、わざわざサステナビリティと言わなくてもいいようになります。一方で、そこで包摂されても、KPIをどうチェックするなどの業務自体は残るので、これはミドルマネジメントの仕事になります。経営トップがこれらを切り分け、かつ融合していくことに意識的である必要があります。
山田
切り分けがあり、融合があるということですね。そういう意味では、当社の取り組みはまだまだ道半ばですね。社外取締役からも“融合”“統合”についてはたびたび指摘を受けているのですが、切り分けて考えがちなのが現状です。KPIへの取り組みをさらに充実させつつ、トップマネジメントでの自然な融合を頭に描きながら、ガバナンスのもう一段の高度化をめざすことが重要だとあらためて認識しました。今後の取り組みに活かしていきたいと思います。