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コスモエネルギーホールディングス常務執行役員 松岡泰助「Vision 2030」を実現し企業価値を高める VOL.3 ビジョン達成に向けた事業戦略 石油事業と脱炭素事業でエネルギーサプライヤーとしての責務果たす

「『Vision 2030』を実現し企業価値を高める」シリーズのVOL.3は、ビジョン達成に向けた事業戦略を紹介する。核となる石油事業、新たに注力するグリーン電力サプライチェーンと次世代エネルギー事業の具体的な展開とは――。コスモエネルギーホールディングス常務執行役員 松岡 泰助氏に聞いた。

「安全操業・安定供給」を大前提にDXでオペレーションを高度化

――コアとなる石油事業は、2030年時点でも1500億円の収益を目指しています。目標達成に向けどのように強化していきますか。

 

松岡  コスモエネルギーグループの石油事業は、石油精製販売、石油開発、石油化学の3領域で展開しています。石油精製販売事業のうち精製の肝は、いかに装置の稼働を高めて安定供給するかです。製油所の操業基盤となる業務システムとしてOMS(Operations Management System)を導入し、さまざまなルールを定め愚直に実行しており、装置稼働率は同業他社と比べ高い結果を実現できています。

 

さらに近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進し、オペレーションや保全の高度化を図っています。ただし、デジタル化はあくまでもツール。大前提にあるのは「安全操業・安定供給」です。根っこにある思いや目指すべき哲学があってこそ、デジタルツールやシステムが効果を発揮するのだと考えています。石油販売面では、燃料を売るだけでなくカーリースや車検など、お客さまのニーズに応えるようメニューをそろえています。

石油事業の競争力強化・低炭素化油田開発、機能化学品に投資

――石油開発、石油化学の分野は、どのように取り組みますか。

 

松岡  石油開発は、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビを中心に展開しています。既存のヘイル油田への投資を早期に回収すると同時に、2021年に新たに権利を獲得した鉱区「Offshore Block 4」の生産開始に向け調査・検討を進めているところです。アブダビでは50年ほどの歴史があり、既存の石油ビジネスを超えエネルギー全般のパートナーとして相談できる関係を構築しています。

石油化学で投資を拡大していきたい分野は機能化学品です。中でも半導体レジスト用樹脂は世界トップクラスのシェアを持っており、半導体市場の成長を受け非常に有望な製品として期待しています。また、樹脂加工や塗料等の溶剤として活用されるMEK(メチルエチルケトン)も、国内最大規模の生産能力を持っています。こうした強みを持つある意味ニッチな分野に投資し、汎用品中心のビジネスモデルから付加価値の高い機能品へ事業転換を図っていき、2030年には2022年比約2倍の収益100億円を目指します。

――石油事業では、低炭素化も課題です。

 

松岡  石油事業を展開する上で、二酸化炭素(CO2)の排出は避けて通れません。問題はCO2をどうするか。製油所や石油化学工場での省エネ等の取り組みは、以前から行っています。今年度から、CO2の分離・回収・液化・貯蔵・出荷からなるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)バリューチェーン構築や、CO2を回収して利用するCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)について、知見を有するさまざまなパートナーと共同検討を始めたところです。また、CO2の排出削減に取り組む企業が自主的に参加する、経済産業省主導の「GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ」にも参加。脱炭素社会の実現に向けて社会全体と足並みをそろえ、ステークホルダーとともに取り組んでいきます。

コスモエネルギーホールディングス常務執行役員 松岡 泰助

1993年コスモ石油(現コスモエネルギーホールディングス)入社。2023年4月から現職

経済価値と社会価値を両立グリーン電力サプライチェーン強化

――将来の成長ドライバーの一つである、グリーン電力サプライチェーン強化について教えてください。

 

松岡  経済価値と社会価値の両立を大前提とし、グリーン電力を供給することで、新しいビジネスモデルをつくりあげていくことが我々の使命だと考えています。これまで再生可能エネルギーでは、陸上風力発電をコア事業として展開してきましたが、さらに洋上風力など発電の多様化も進め、2030年再エネ発電設備容量2000MWを目標に拡大していきます。


コスモエネルギーグループでは電力の小売り事業も行っており、川上から川下までお客さまが望む多様なメニューをパッケージで展開しています。再エネ由来の「コスモでんきグリーン」および「コスモでんきビジネスグリーン」の販売、サービスステーション(SS)へのEV(電気自動車)用急速充電器の設置、「コスモMyカーリース」でのEVの提供など--。我々固有のリソースを生かし、コスモエネルギーグループならではのサプライチェーンに環境価値を付けることが、コスモの「グリーン電力サプライチェーン」なのだと考えています。

グリーン電力サプライチェーン

需給調整機能の構築に向け蓄電ビジネスの実証をスタート

――実現に向け、どのような取り組みを進めていますか。

 

松岡  再エネは季節や天候の影響を受け発電量が安定しにくく、需要とのミスマッチが生じます。グリーン電力のサプライチェーンを強化するには、需給調整、つまり蓄電という機能が欠かせません。我々は、ここに価値がありビジネスチャンスであると捉え、蓄電ビジネスの実証をスタートしました。コスモエネルギーグループにおける既存の発電所内やSSなどでの実証を通じ、2030年にはグリーン電力の販売を40億kWhまで拡大したい。特に、蓄電と放電をコントロールするエネルギーマネジメントシステムの構築が重要で、大きなチャレンジだと認識しています。

SAF量産化、水素事業など 次世代エネルギー拡大めざす

――次世代エネルギーの拡大も進めていますね。

 

松岡  多種多様なメニューが議論される中、我々がいち早く着手したのがSAF(Sustainable Aviation Fuel=持続可能な航空燃料)の量産化です。堺製油所内に大規模生産実証設備を建設し、2024年度内に日本初の量産化に向け進めています。この原料は飲食店や家庭から回収された廃食用油で、年間3万KLの生産を計画しています。さらにSAFの供給を拡大するためには、原料の多様化や調達ソースの多角化が必要。バイオエタノールからSAFを製造する「Alcohol to Jet (ATJ)」技術などを活用し、2030年30万KL/年体制を目指して取り組んでいます。

 

水素サプライチェーンへの参入も進めています。2022年に岩谷産業社と水素事業の協業に関する基本合意書を締結しており、2024年度にはFCV(燃料電池車)トラック向け水素ステーション1号店を開設する予定です。2号店、3号店の候補地も決まっています。また昨年11月には、同社と水素関連プロジェクトのエンジニアリング事業を行うジョイントベンチャーも設立しました。既存のリソースや設備はもちろん、互いの知見や経験を生かし、うまく事業につなげていきたいと考えています。

社会の要請に応えることが 企業価値の最大化につながる

――コスモエネルギーグループの強みを含め、日経電子版読者にメッセージをお願いします。

 

松岡  石油というコア事業を持ち、脱炭素社会の実現に向けた必要なチャレンジができる。この2つをバランスよく持っている点が、我々の強みだと感じています。チームとして守りと攻めに取り組むことができ、それを許す自由な風土もある。こうした強みを存分に発揮したいですね。

社会の要請に応えることが企業価値の最大化につながる

コスモエネルギーグループは今後も、安全操業・安定供給で石油製品を供給していきます。加えてこれからは、脱炭素社会に向けグリーン電力、次世代エネルギーなどに柔軟に対応することも必要。まだ明確な答えのない大きなチャレンジで、苦しいことも多いですが、苦しさの裏には面白さもあると考え、楽しみながらチャレンジしていきたいですね。お客さまの期待や社会の要請に応えることが、企業価値の最大化につながると信じ、エネルギーサプライヤーとしての責務を果たしていきます。

(日本経済新聞電子版掲載期間:2024年3月11日~ 2024年04月10日)